すずめの戸締まりを考察！サダイジンから読み解く物語の核心

映画「すずめの戸締まり」を観た方の中には、サダイジンという存在に強い印象を受けた方も多いのではないでしょうか。白く大きな猫の姿をしたサダイジンは、物語の後半で突如登場し、すずめや環の心に隠された本音を引き出すという衝撃的な役割を果たしました。ダイジンとの関係性や、なぜあのような行動をとったのか、疑問を感じた方も少なくないはずです。

すずめの戸締まりにおけるサダイジンの考察を深めることで、この作品が持つ重層的なメッセージや、登場人物たちの心理描写の意味がより鮮明に見えてきます。サダイジンは単なる脇役ではなく、すずめの成長物語において欠かせない触媒として機能していました。

この記事で分かること

すずめの戸締まりでサダイジンを考察する

サダイジンという神秘的な存在を理解するには、まず名前の由来や登場した理由、そして要石としての役割を整理する必要があります。ここからは、サダイジンとダイジンの関係性を軸に、物語の深層に迫っていきましょう。

サダイジンとダイジンの名前の由来

サダイジンという名前は、作中で岩戸環の口を借りて登場したシーンで名乗られたことから、これが正式な名称であると考えられます。一方、ダイジンという呼び名の由来については、映画パンフレットや公式情報で詳しく説明されています。SNSに投稿された写真に対して「白いおひげが昔の大臣みたい」と話題になり、それが広まって「ダイジン」と呼ばれるようになったのです。

公式情報によれば、ダイジンの名前には「大きな力・大事な役目を担う"大臣"」と「神としての"大神"」の両方の意味が込められているとされています。ただし、サダイジンとダイジンという名前の組み合わせから、多くのファンが左大臣と右大臣を連想する考察を展開しています。もし対となる存在であるサダイジンが「左大臣」を意味するならば、ダイジンは本来「右大臣（ウダイジン）」と呼ばれるべき存在だったのかもしれません。

日本の雛人形の飾り方を思い出してみてください。雛飾りでは向かって右側に左大臣、左側に右大臣を配置します。これは雛人形から見たときに左大臣が左、右大臣が右に来るように配されるためです。ちなみに、右大臣と左大臣は「随身（ずいしん）」という警護のための武官であり、左大臣のほうが格上とされています。

また別の考察として、ダイジンは「大臣」ではなく「大神」、特に猿田彦大神との関連も指摘されています。猿田彦が天孫降臨を導いたという神話が、ダイジンがすずめを各地の後ろ戸へと案内した行動と重なるという解釈です。すずめの居住地である宮崎県は天孫降臨伝説の舞台でもあり、この符合は興味深いものがあります。

サダイジンが登場した理由と目的

「サダイジン」#すずめの戸締り #ダイジンといっしょ #イラスト pic.twitter.com/OZH9Gns7gy

— yu² (@yuda_00x0_) November 8, 2022

サダイジンが物語に登場したタイミングは、すずめと草太が東京に到着した直後でした。芹沢が草太の家を訪問した時点で、すでに東京地下の後ろ戸は開いていたことが分かっています。ダイジンが抜かれたことにより各地に異変が起き始め、バランスが崩れたサダイジンも自然に抜けてしまった可能性が高いと言えるでしょう。

サダイジンの主な目的は、ダイジンと同様に要石としての役割を果たすことです。要石は二つで対になっており、宮崎と東京にそれぞれ存在していました。これらは、南海トラフ巨大地震が想定される宮崎沿岸部と、首都直下地震が懸念される東京という、現実の地震リスクを意識した設定とも読み取れます。封印が解かれたことで、サダイジンは閉じ師であるすずめのもとへ向かい、再び後ろ戸を閉じてもらう必要があったのです。

小説版や設定資料では、要石が数百年に一度の大きな災いを抑える存在であることが説明されています。また、要石の所在地が時代によって異なっていたことを示唆する記述もあり、ダイジンがすずめを誘導して各地の後ろ戸へと導いたプロセスには、単なる偶然以上の必然性があったとも考えられるのです。

サダイジンが環の本音を引き出した意味

サダイジンが岩戸環に憑いて本音を言わせたシーンは、多くの観客に強烈な印象を残しました。環の口を通して「出て行って」「うちの子じゃない」といった言葉が発せられ、すずめは深く傷つくことになります。しかしこの演出には、単なる感情の爆発以上の深い意味が込められていたと考えられるのです。

まず理解すべきは、作品において環とすずめの関係が、すずめとダイジンの関係と相似して描かれているという点です。環は震災後のすずめに「うちの子になろう」と声をかけました。同様に、すずめもダイジンに「うちの子になる？」と問いかけています。お互いに自分から「うちの子になろう」と言った後で、すずめはダイジンに「大嫌い、どっか行って」と拒絶の言葉をぶつけてしまいました。

一つの解釈として、サダイジンは親猫として、傷つけられた仔猫のダイジンに代わって、すずめに自分がした行動を省みさせようとしたとも言えます。すずめがダイジンに気持ちをぶつけたように、環の口を使ってすずめに同じ痛みを経験させることで、自らの行動の意味を理解させようとしたのかもしれません。

別の視点として、サダイジンが環とすずめの本音を引き出したのは、二人の距離感を結ぼうとしていた可能性も考えられます。実際、オープンカーが田んぼに落ちた後の環は、それまでよりも若く明るい印象で描かれており、すずめもそれまで秘密にしていたダイジンたちや草太について話すなど、関係がより深まっています。かつてあった日常、そして立ち直ろうとする今が綺麗だと感じたからこそ、すずめは東北の扉を閉じ、トラウマから前を向くことができたと言えるのではないでしょうか。

サダイジンとダイジンの関係性

すずめの戸締まり
映画鑑賞

全体的に主人公チームよりダイジンとサダイジンに気持ち入ってしまった。
ダイジンが災いを起こしているのか、災いが起こる場所を教えてくれているのか最初わからずやんちゃ猫なんだけど、すずめの言葉に強い影響を受けている所や最後に要石に戻る時は切なかったなぁ→続2 pic.twitter.com/V7OvYOKXiV

— ジムねえ (@jimuneee) May 2, 2024

サダイジンとダイジンは、単なる対の存在というだけでなく、親子のような関係性として描かれています。サダイジンの体が大きく、ダイジンが小さな子猫の姿をしていることから、大人と子供の対比が明確に表現されていました。

ある考察では、サダイジンが大人でダイジンが子供として描かれているのは、環とすずめとの対比を見せたかったからだと指摘されています。環は大人として責任を背負い、すずめを育てる立場にありました。一方、すずめは震災で母を亡くした傷を抱えたまま、まだ完全には大人になりきれていない存在です。サダイジンとダイジンの関係性は、この二人の状況を別の形で映し出していたと見ることもできるでしょう。

ダイジンやサダイジンは、人の感情とシンクロする性質を持っていると考えられます。すずめの心情を態度や動きで表現するのがダイジンであり、わがままだったり意地悪だったりするのは、すずめの心が投影されているからです。偶然か意図的かは分かりませんが、環の後ろにいたサダイジンとシンクロして、環は本音を喋ってしまいました。サダイジンが怖い感じになっていたのは、すずめが言い返して荒ぶっていたからでもあったのです。

サダイジンがダイジンに「シャー」と威嚇したシーンについては、後ほど詳しく考察しますが、「こんなところで油売ってないでミミズ抑えに行け」という諭しだったという解釈や、大好きなすずめが傷つけられたことへの怒りだったという見方があります。いずれにせよ、仔猫のダイジンと親猫のサダイジンという関係性が、二者の間に確かな絆が存在していたことを示唆していると言えるでしょう。

サダイジンの体が大きい理由

サダイジンの体がダイジンよりも明らかに大きく描かれていることには、複数の理由が考えられます。最も直接的な解釈は、封じていた土地の人口や重要性の違いです。東京は首都であり、日本最大の人口を抱える都市です。一方、宮崎は人口も比較的少なく、地方都市に位置づけられます。要石が抑えるミミズの規模や力が、対象となる土地の重要性や人口に比例するとすれば、サダイジンが大きく強力なのは自然な設定と言えるでしょう。

別の視点として、もし左大臣と右大臣という連想が意図されているならば、格の差という要素も考慮できます。前述したように、雛飾りでは左大臣のほうが格上であり、老人の姿で表されることが一般的です。サダイジンが「左大臣」を意味するという解釈に立てば、格上の存在として大きく描かれることには十分な根拠があります。

さらに、感情や思い出を引き出す後ろ戸の副作用を強調するためという演出上の理由も指摘されています。ダイジンよりもサダイジンを大きく描くことで、環やすずめの負の本音を引き出してしまう力の強さを視覚的に表現していたのかもしれません。体の大きさは、そのまま影響力の大きさを象徴していたと考えることもできます。

すずめの戸締まりのサダイジン考察と物語の核心

ここまでサダイジンの基本的な設定や登場理由について整理してきました。ここからは、要石としての本質的な役割や、サダイジンが物語において果たした真の意味について、より深く掘り下げていきましょう。

要石としてのサダイジンの役割

サダイジンの本来の役割は、ダイジンと同様に要石として日本の大地を守ることでした。要石は二つで対になっており、ミミズという災いの象徴を封じ込める重要な存在です。祝詞では日不見の神として呼びかけられる存在であり、ミミズはそのビジュアル的な象徴として描かれています。

草太が後ろ戸を閉める際に唱える祝詞には、「かけまくもかしこき日不見の神よ」という一節があります。現代的に訳すと「心から尊いミミズ様は、遠い昔に我々を生んだ土地の神様。あなたに頂いて長い時間の経ったこの山や河を、畏れ多くもお返しいたします」といった意味になるでしょう。

監督インタビューなどから、ミミズは地震だけでなく大地そのもの、見えない自然の力を象徴する存在として語られています。普段は大地を象徴する存在であるミミズが、土地が廃墟になったとき、孤独や無念を抱き、地震という形で存在を示すのではないかという解釈も考えられます。自分が生きた証が失われる廃墟に対して、死者の存在を訴えるという見方です。

サダイジンは東京という日本最大の都市を守る要石として、長年役割を果たしてきました。しかしダイジンが抜かれたことにより、バランスが崩れてサダイジンも抜けやすくなっていたと推測されます。代々閉じ師が守ってきたバランスが崩れた結果、二つの要石が同時に機能しなくなるという事態が発生したのです。

サダイジンは悪役ではなかった？

すずめの戸締まりでちょっともにょるポイントその２：サダイジンがぽっと出すぎる #すずめの戸締まり pic.twitter.com/j8Jrbufoxc

— ガタリノフ (@GATARI03) April 5, 2024

物語の中盤で、サダイジンは環の口を通してすずめを傷つける言葉を発し、多くの観客に「悪役」という印象を与えました。しかし作品全体を通して見ると、サダイジンは決して悪意を持って行動していたわけではないことが分かります。

まず押さえておくべきは、サダイジンの目的がダイジンと同じく要石としての役割を果たすことだったという点です。小説や映画内では100万人規模の死者になり得る地震というニュアンスの説明が出てきますが、サダイジンもまた、すずめを閉じ師として導き、後ろ戸を閉めてもらうという本来の目的のために行動していたのです。

環の本音を引き出したシーンも、別の角度から見れば悪意ではなく必然だったと言えます。乗り移ったというよりも、感情を引き出してしまったという表現のほうが正確でしょう。元要石であるダイジンやサダイジンには、感情や思い出を引き出す側面を持つ後ろ戸の副作用のようなものがあるという考察もあります。

公式パンフレットでも、ダイジンやサダイジンを単純な悪役として扱っていないトーンが感じられます。むしろサダイジンの行動は、結果的にすずめの成長を促す重要な役割を果たしました。環との喧嘩を経て、すずめは自分がダイジンを傷つけたことの意味を理解し、また環が自分を育てるために多くを犠牲にしてきたことにも気づくことができました。仲直りの後、環とすずめの関係はより深まり、すずめはトラウマから前を向くことができたのです。

環とすずめを映すサダイジンの演出

サダイジンとダイジンの関係性が、環とすずめの関係性を別の形で映し出しているという点は、この作品の重要な構造の一つです。大人の猫であるサダイジンと子供の猫であるダイジン、そして大人として責任を背負う環と、まだ完全には大人になりきれていないすずめ。この二組は明確に相似形として描かれています。

環は震災後のすずめに「うちの子になろう」と声をかけ、12年間一度も故郷の東北に行かせませんでした。徹底的に保護して育てるという方針の背景には、環自身の辛い経験がありました。震災当時、環がすずめを迎えに来て九州に連れて行こうとしましたが、夜にすずめはお母さんを探しに一人で外に出て行方不明になってしまいます。環がすずめを発見したとき、すずめが抱えていたのが三本足の椅子でした。それがたまらなく切なかったと小説版では語られています。

すずめもまた、ダイジンに「うちの子になる？」と問いかけました。お互いに自分から「うちの子になろう」と言った後で、すずめはダイジンの行動に不満を覚え、東京の後ろ戸のシーンで「大嫌い、どっか行って」と嫌味をぶつけてしまいます。一つの解釈として、仔猫のダイジンが傷つけられたことにより、親猫のサダイジンが環を使い、すずめがダイジンに気持ちをぶつけたように「出て行って」「うちの子じゃない」といった発言をさせ、すずめに自分のした行動の意味を理解させようとしたとも考えられます。

オープンカーが田んぼに落ちた後、環とすずめは和解します。環はそれまでよりも若く明るい印象で描かれ、すずめもそれまで秘密にしていたことを話すようになりました。二人の関係がより深まったのは、サダイジンが引き出した本音によって、お互いに抑圧していた感情が表面化し、向き合う機会を得たからだと思われます。

ダイジンへの「シャー」の意味

今日も金曜ロードショー
すずめの戸締まり ‍⬛
めちゃくちゃ面白いかった
感動しました
そしてダイジンとサダイジンかわいい"(∩>ω<∩)"
来週も楽しみです#金曜ロードショー#すずめの戸締まり
#紺青の拳#ダイジン pic.twitter.com/NW2H4wgVuh

— 曜ちゃん&真姫ちゃん推し (@tantanfang0317) April 5, 2024

サダイジンがダイジンに対して「シャー」と威嚇したシーンは、一見すると単なる親子喧嘩のような描写に見えます。しかしこのシーンには複数の解釈が可能であり、それぞれが物語の理解を深める重要な手がかりとなっています。

最もシンプルな解釈は、「こんなところで油売ってないでミミズ抑えに行け（要石候補を探しに行け）」という諭しだったというものです。ダイジンとしては、すでに草太を次の要石に任命し役目を終えているつもりでした。しかしサダイジンに諭されることで、自分の責任を再認識したのではないでしょうか。実際、ダイジンは後ろ戸が空いているのを知らせるという本来の役割に戻っています。

別の解釈として、大好きなすずめが環によって傷つけられたことへの怒りだったという見方もあります。サダイジン（環）により大好きな鈴芽が傷つけられたため、ダイジンは威嚇行為を示したというものです。すずめは環の言葉に対して言い返して荒ぶっていたので、ダイジンも怒りを見せたと考えることができます。

さらに深い解釈として、サダイジンはダイジンに対して親としての愛情を示していたという見方もできます。仔猫のダイジンが傷つけられたことに対して、親猫のサダイジンが反応したのだとすれば、「シャー」という威嚇は「お前が傷ついたことは分かっている。しかし感情に流されず、やるべきことをやりなさい」という教育的なメッセージだったのかもしれません。いずれの解釈を取るにせよ、このシーンがサダイジンとダイジンの関係性、そしてすずめと環の関係性を重ね合わせる重要な場面であることは間違いないでしょう。

サダイジンが示す親子関係の相似性

「すずめの戸締まり」という作品全体を通して、親子関係の相似性は繰り返し描かれるテーマとなっています。サダイジンとダイジンの関係は、単なる要石同士の対という以上に、環とすずめの関係を象徴的に映し出す鏡として機能していました。

まず注目すべきは、「うちの子になろう」というフレーズの反復です。環がすずめに対して「うちの子になろう」と言い、すずめもダイジンに対して「うちの子になる？」と問いかけました。この対称性は偶然ではなく、作品が意図的に設計した構造です。両者とも、自分から関係性を提案した側が、後に相手から拒絶されるという痛みを経験することになります。

すずめは東京の後ろ戸のシーンでダイジンに「大嫌い、どっか行って」と言い放ちました。一方、環はサダイジンを通して「出て行って」「うちの子じゃない」という言葉をすずめにぶつけます。自分から関係性を提案した後で、相手を拒絶するという行為の対称性が、ここに明確に示されているのです。

この構造が意味するのは、愛情と拒絶は表裏一体であり、親子関係（あるいはそれに準ずる保護関係）において避けられない葛藤だということです。環は12年間すずめを東北に行かせず、徹底的に保護してきました。しかし保護の裏には、「もう二度とあの辛い経験をさせたくない」という環自身の恐怖や不安も隠されていたのです。

なお、一部のファンの間では、サダイジンとダイジンの色が変身後に逆転するという指摘や、1923年の封印で入れ替わっている可能性も考察されています。あくまで仮説ですが、親子の役割が時として逆転したり、境界が曖昧になったりすることを暗示しているのかもしれません。実際、すずめが常世で過去の自分と出会い、自分自身を励ますシーンは、親と子の役割が循環していることを象徴的に示していました。

最終的に、環とすずめは和解し、より深い理解と信頼関係を築くことができました。同様に、ダイジンもすずめに拒絶された後、痩せこけながらもついていき、最後には自らの役割を全うします。親子関係における葛藤、拒絶、そして和解というプロセスを、サダイジンとダイジンという神の姿を借りて描くことで、作品は普遍的な人間関係のテーマに昇華させているのです。

総括：すずめの戸締まりを考察！サダイジンから読み解く物語の核心